君の名は。が大ヒットしているというので見ろ見ろという同調圧力の高まりは、もはや臨界点に突破せんとしていた。
そして仕方がないのでスケジュールの合間を縫って見に行くのだった。はいはい、わかってますよ。礼には及びません。仕事ですから。
そしてなんていうか、いたたまれない気分になって、君の名は。を見た直後の女子二人と合流。
三人で顔を突き合わせ
「どう・・・だった?」
と恐る恐る顔色を伺う。
まるでマフィアで裏切り者をあぶり出すときのような、独特の緊張感が漂った。
「・・・いろいろ良いところ、そうでもないところはあると思うが、総合的には・・・オレは・・・ダメ・・・だった」
するとパッと安堵の表情が浮かび上がり、「よかったあ」と二人は手を取り合って喜ぶのだった。
まあ個別にどこがどうとかは言っても仕方のないことなのでそこはいいとして。
いくつかの場面では「おっ」と思うこともありました。「おおっ」と思うことも。でもやっぱり全体を通して考えると・・・ダメ・・・なんでか知らないけど。
「ところでさ、EQって知ってる?」
「心のIQって言われてるやつでしょ」
「あれさー、診断してみてよ。私、40なんだけど、悔しくてもう絶対本当はこう思ってないけど無理して"これが正解でしょ"っていうのを選んでも65なんだけど」
「何店満点なの?」
「200点満点らしい。ちなみに彼氏は初回で150だった」
「マジか」
もう一人の女子も「やばい。私45だ」
そこて僕もやってみると、65。精一杯嘘ついて105。やっと人並みの心を持っているということだ。おかしい・・・なにかが狂ってる!いや・・・狂ってるのはオレの方か。
「クソッ!・・・いったい原因はなんなんだ!」
バン!と机を叩く。
「ところでシン・ゴジラは見た?」
「うん、超好き。超面白かった」
「すごく面白かった。もう一回見たい」
・・・ポン、と思わず手を叩いた。
「そうか・・・君の名は。が嫌いでシン・ゴジラが好きな人間はEQが低いんだ」
その後、ゴールデン街のバーでもマスターがEQテストをやってみると、やはり41。
「マスター、君の名は。どうだった?」
「えー、私キライ。シン・ゴジラの方が全然好きなんだけど」
なんという偶然の一致!!
偶然が三度も続いたらそれは必然である、と、松本清張先生も言っておられた。
そして気がつくと、僕は5日ぶり8回目のシン・ゴジラ鑑賞のため日比谷シャンテに足を運んでいたのだった。
なんだろうこの無駄のない感じ。
ぜんぶのカットに無駄がない。テロップ芸も含めて無駄が一切ない。
映り込む小道具、固有名詞、無駄がない。
そしてわざとチープな宇宙大戦争マーチにチープにレンダリングされた無人在来線爆弾。高圧ポンプ車。これだ、オレが見たかったのはコレなんだよ!!!
まだ名台詞ステッカーを貰えたので、とりあえずiPhone 7 Plusに「無人在来線爆弾」ステッカーを貼り付けた。
なんだろう。ただそれだけでなんかワクワクする。心が躍る。人間てなそんなものかもしれない。
日比谷シャンテではシン・ゴジラキャンペーンを展開中で、いろいろ特別メニューとかも食えるらしい。さすが東宝本社のあるゴジラの聖地である。
君の名は。どうして僕にはしっくり来なかったんだろう。単なる演出の問題というわけでもストーリーの問題というわけでもキャラクターの問題というわけでもない気がするが、原因はそのぜんぶのような気もする。
そしてこれが100億突破し、オレが愛してやまないシン・ゴジラは60億から70億でとどまってしまうのかと思うと、この世界の厳しさを痛感する。実写映画を8回も劇場で見たのは人生で初めてであり、終わる前に最低でもあと4,5回は見ておきたいと思うような映画もなかなかないのだ。
自分がエキストラとして参加しているからではない。というか実のところあれはちょっと後悔してる。あのシーンだけ素直に楽しんで見ることが出来ないからだ。ものすごく緊張感のあるいいシーンなのに。
思わずメランコリックな気分になって日比谷から泉岳寺まで歩いてしまった。
ある意味で聖地巡礼とも言える。
それを言ったら東京の西側はだいたい聖地になってしまうが。
なぜこんなにおもしろい映画が興収100億いかないのだ。
まあある意味でB級映画的な映画ではあるから正しいといえば正しいのかもしれないけど。
日本の映画マニアの力というのはそんなものか、それともやはりシン・ゴジラをグズグズ言い訳をつけて行かなかったゴトーが気がついたら13回も君の名は。を見てるという事実に太刀打ち出来ないのか。
そして一方、100億超えの大人気作品である「君の名は。」は新しいポスターがいろんな意味で話題を呼んでいる。
ポスターの中で「何年も何度でも見返したい」と語る40代男性よ、君はいったい、どんな人生を送ってきたのだ。「私の魂が浄化された」と語る30代女性よ、君の魂はそれまでいったいどれだけ汚れていたのだ。
なぜあの映画からこういう感想が引き出せるのか、いったいどこがツボなのか全然わからない。これがEQ100未満ということなのか。オレはサイコパスなのか
それとも単にオレが川村元気というプロデューサーがキライなだけなのか。
こういうポスターを仕掛けるのは主にプロデューサーの仕事である。
こういうポスターはそもそも新海誠らしくないじゃないの。
しかしなあ、うーん
シン・ゴジラ、おれは好きなんだけど、ゴトーを13回も通わせる「君の名は。」のパワーはどこにあるのか。感性が古くなっちゃったかなあ
ちなみにゴトーは最初から「清水さんにはお薦めしません」と言っていたので僕の感想を読み切っていたのだと思われ。